親知らず抜歯後の違和感― 術後経過を確認する重要性

親知らずの抜歯は、歯を抜いて終わる治療ではありません。
抜歯後は骨や歯周組織の治癒が進むため、痛みや腫れだけでなく、違和感や隣在歯への影響なども含めて経過を確認することが大切です。
私は5年前に海上自衛隊を退職し、現在は日航ビル歯科室で口腔外科診療を中心に行うほか、休日には茨城県や埼玉県の歯科医院で口腔外科診療支援を行い、多くの親知らず抜歯に携わってきました。
その経験を通じて、近年特に重要だと感じているのは、「抜歯を安全に行うこと」と同じくらい、「術後の治癒経過を丁寧に観察し治癒を確認すること」です。

海上自衛隊で学んだこと

海上自衛隊時代には、護衛艦の医務室で親知らずの抜歯を行うこともありました。
洋上では高度医療機関への搬送が容易ではないため、術前診断から術中・術後まで、安全性を最優先に診療を行っていました。勿論誰も助けてくれません。最高の緊張感です。
その経験は、現在の口腔外科診療にも生かされています。
口腔外科には「智歯抜歯に始まり、智歯抜歯に終わる」という言葉があります。
親知らずの抜歯は、解剖学的条件や炎症の程度などによって難易度が大きく異なり、経験を重ねるほど奥深さを感じる外科処置の一つです。

術後経過を確認する重要性

当院では、自院・他院で抜歯された患者様を問わず、
「抜歯後の違和感が続く」「食べ物が詰まりやすい」「隣の歯がしみる」「腫れや痛みが改善しない」といった症状についてご相談を受けることがあります。
このような場合には、必要に応じてCT検査を行い、骨や歯周組織の治癒状態を詳しく確認します。
パノラマX線写真では異常が明らかでなくても、CT検査によって骨形成や歯周組織の状態をより詳細に評価できる場合があります。
術後経過は、抜歯手技だけでなく、抜歯前の炎症、歯の位置、骨の状態、清掃状況など、さまざまな要因の影響を受けます。
そのため、症状や画像所見を総合的に判断し、必要に応じて追加の処置を検討することもあります。

以下は、右下の親知らず抜歯後に違和感が続いた患者様の一例です。

他院で抜歯後も違和感が続くたため受診されました。
症状や口腔内所見を確認し、必要性を説明したうえで画像検査を行いました。

パノラマX線写真では、抜歯部位の外形が一部確認できましたが、この画像のみでは症状の原因を明確に判断することは困難でした。

レントゲン写真
初診時パノラマX線写真
レントゲン写真
初診時パノラマX線写真

CT画像では、抜歯部位周囲の骨の再生が進んでいない事が確認されました。

右下第二大臼歯遠心部周囲に透過像を認めました。
また、頬側と舌側の骨の形態に差がみられ、抜歯窩では骨形成が十分でない可能性が示唆されました。

CT
CT

抜歯から半年以上経過しても、右下顎の重苦しい違和感が持続し、時折強い痛みを自覚されることもあるとの事でした。
右下第二大臼歯遠心部には8ミリの歯周ポケットも認められ、画像所見および臨床症状から、抜歯後の治癒不全や嚢胞性病変の可能性を考えました。

経過観察を行いましたが、症状の改善が乏しかったため、考えられる治療内容、リスク、代替案などを説明し、同意を得たうえで外科的処置を行いました。

CT
手術所見

局所麻酔の際、麻酔液の圧によって切開線付近から黄色調の排膿を認めました。

歯肉粘膜骨膜弁を剥離すると、右下7番遠心部には肉芽組織が残存し、十分な骨形成は認められませんでした。

頬側皮質骨は広範囲に欠損していました。

抜歯窩内部には被膜を伴う嚢胞様組織を認め、その内部には黒色の異物様物質が存在していました。

嚢胞様組織を摘出しました。

十分に掻爬・洗浄を行なった後、縫合し、軟膏ガーゼを留置して手術を終了しました。

親知らず抜歯後の経過確認について

親知らずの抜歯後は、症状や口腔内の状態に応じて、長期間治癒経過を確認することがあります。
隣在する第二大臼歯への影響が疑われる場合には、歯周ポケットや骨の状態を確認し、必要な対応を検討します。

親知らずの診療では、抜歯前の診査、処置内容の検討、術後経過の確認を含め、患者様の状態に応じた対応が必要と考えています。
元海上自衛隊歯科医官として、そして現在も口腔外科診療に携わる歯科医師として、これまでの診療経験を踏まえ、今後も患者様ごとの状態を確認しながら、抜歯前の診査から術後の経過確認まで、必要な情報提供と診療を行ってまいります。

おことわり
  • 本記事は、親知らず抜歯後に違和感が続いた患者様の一例を紹介するものです。
  • すべての方に同様の症状や経過が生じるわけではなく、診断や治療内容は患者様の状態によって異なります。
  • CT検査や外科的処置は、診察所見や症状、画像所見などを踏まえて必要性を判断します。
  • 治療には、痛み、腫れ、出血、感染、しびれ、治癒遅延、再処置が必要となる可能性などのリスクがあります。
  • 気になる症状がある場合は、自己判断せず歯科医師へご相談ください。

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